万雷の喝采を一身に受け、光のシャワーを浴び続ける者がいる。
それは僕ではないし、まして君でもない、もっと別の人。
その人は、両手を高々と掲げるとこうべと共に振り下ろす。辺りには紙吹雪が舞い、観客全員が椅子から立ち上がって手を打っている。
僕の夢。
けれど、夢はいつか覚めるもの。
第一幕 やりたいこと
……ピッ! ピピッ!
目覚まし時計のけたたましい旋律が耳を刺激し、鉛のように重い瞼を開ける。
「やっば……!」
時計の針は、予定よりも早く進んでおり、僕は思わず声を上げた。
アルバイトで日銭を稼ぎながら面接に出向く日々が、また始まる。
二〇一五年三月、いつもとさほど変わらない日常。
「一宮(いちみや)コウスケさん、ですね。ではまず、当社の志望動機をお願いします」
「はい、私は人の笑顔を見るのが好きで、誰かの笑顔を作る仕事に就きたいと思い、御社を志望いたしました」
厳格そうな面接官だ。顔の彫りが深く、ムスッとした表情でこちらを見つめていた。
「もし入社したら、どのようなことを成し遂げたいですか?」
「困っている人に笑顔を分け与えられるような、そんな仕事をしたいです」
面接官の表情が曇る。
「質問を変えましょう。あなたはこの会社に、何の利益を上げられますか?」
言葉が出ない。何か話さないといけないのに、何も返すことができなかった。
「一宮さん、当社は保険会社です。慈善事業を行う団体とは違う。綺麗ごとは、会社に必要ありません」
一駅先のビデオショップ、アルバイトの勤務先にて。
「一宮さぁん、困るんだよ。これでミス何回目?」
アルバイトの先輩からのダメ出しである。
「はぁ……すいません」
「いったい何回間違えたら気が済むんだい! こっちもね、困るんだよ! アンタみたいのがいると!」
「……はぁ」