【前回の記事を読む】何をやっても上手くいかない日々。そんなある日、僕は高校の先輩と再会した。先輩は僕の顔を見るなり泣き出したのだった……

第一幕 やりたいこと

気付くと空は赤らんでいた。

川のせせらぎが聞こえる、河川敷。

草の上に寝転ぶなんて、いつからしていなかっただろう。

お互いの口から言葉が発せられないまま、幾分と時間が過ぎていた。

何本目かの電車が通り過ぎて、先輩は口を開く。

「こうやって話すの……何年ぶりだっけ?」

僕は先輩の隣で、一緒に芝生の上に寝転がっていた。

「ざっと七年くらいです」

ツバサ先輩は、高校時代の演劇部の先輩。高校卒業後、町の劇団に所属したと聞いていたが、その後は知らなかったので、声をかけられた時は心底驚いた。

「懐かしい……今は何やってるの?」

「何って……ただのフリーターですよ。バイトで稼いでて、やっとって感じです」

「ふぅん……」

僕が草をいじりながら申し訳なさそうに言うと、先輩は星を見上げたまま、こうつぶやいた。

「私、コウくんの書く話が好きでさ……今でも思い出すんだよね。台本も取っておいてあるんだよ?」

「そうっすか……」

僕は照れくさくなり、視線をそらす。すると先輩は横になったまま、こちらを向いた。

「……コウくんさ、今でも書きたいって思ってる?」

「……」

言葉が出なかった。思い出に蓋をしていた僕にとって、その言葉はあまりに重く、しかし輝いて聞こえた。思わず振り向くと、先輩は僕をじっと見つめていた。

「どう? 書きたい?」

その言葉は、期待と寂しさの混ざったような音がしていた。僕は、この人の言葉に乗ってもう一度夢を見るのも悪くない、そう思った。

「……わかんないです……自分が今、何をしたいのか」

先輩は少し悲し気な表情になってから、

「そっか」

と、一言返した。そして僕らは、同じ星を眺めた。

四畳半のボロアパート。朝に急いで飛び出したせいか、部屋はぐちゃぐちゃに散らかっていた。

僕は頭を抱えながらも、物を片付け始める。すると、一冊の台本が目に留まった。

「これも七年前……か」

無理を言って書かせてもらった、最初で最後の台本。

それを懐かしむこともせず、ゴミ箱に丸めて突っ込んだ。

「どうせ何を書いたって……」