だけど、夢はいつか覚めるもの。学生の時に舞台の脚本を一本書いたきり、ペンを握ることすらしなくなっていた。
どうせ僕なんか……。
そう言って、帰路に戻ろうとした瞬間だった。
「コウ……くん?」
背中の方から、女性の声がした。
「……え?」
久しぶりに聞く声。
僕はその声に、思わず振り返った。
「ツバサ先輩……?」
ショートボブの茶色い髪に、青いワンピースを纏った女性。
記憶の中にいるブレザー姿とは違うが、同じツバサ先輩だ。
先輩と思しきその女性は、僕のそばに走ってくると僕の顔を確認する。
「あぁ……やっぱり、コウくんだ」
そう言うと、瞼に乗り切らないほどの涙を浮かべた。
僕には、何が起こっているのかわからなかった。
高校時代に世話になった先輩が、久しぶりに会うなり、僕の顔を見て泣き出したのだ。
啜り泣く先輩が目立ったのか、辺りから白い視線を感じる。
「と……とりあえず、一旦どこか移動しましょうか。いろいろ、話したいこともあるでしょうし……」
先輩は目元を手で押さえながら、小さく頷く。
ここでこのままの状況は、いろいろとまずい。
僕は先輩を連れて、あてもなく歩き出した。
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