「ワイの指摘しとるのは、ビジネススクールそのものやない。市場原理主義やら、金融資本主義やら新自由主義あたりに巣食うとる、上から目線のTOP GUNごっこや」

「オッチャンさん、ホモ・エコノミクスって、なんですか?」シュウトくんがぽそっと訊ねる。

「ほれ、クマゴロウ、検索GO!」オッチャンが丸投げする。

クマくんはすでに指を動かしていて、短めの解説文を選んで読む。

〈ホモ・エコノミクスは、経済合理性に徹して、自己の利得を極大化させること目指す。他者の利得を考慮することがない。そうした行動基準をとる人間の類型をいう〉3)

「おのれの利益のために、世の中すべてを計算づくで判断する人類のことや。ホモ・エコノミクスを布教・増産したんが、まぁ、ミルトン・フリードマンを教祖とする一派と言うても、ええやろ」

オッチャン節が、高揚しはじめる。

――社会の中から経済が突出して、主役化してもうた。それやから企業経営の、そして競争優位のスキルを握っているヤツらが、まるで自分たちを全知全能のように勘違いするのや。

ホモ・エコノミクスをマイモデルに据えたエリートは、市場で純粋に勝負するのが、自由な人間の正当な活動やと考えた。しかしヤツらは、自由主義と言いながらも人間の尊厳を考慮せんわ。ひとを利益製造装置のパーツとして嵌め込むことが、企業価値を最大化する王道であるかのようにふるまう。

ビジネスの世界は、その教えをまるでバイブルのように崇めてきたやないかい。なにが自由やねん。まったく、ナニさまでおわしますかは知らんけど

アッちゃんが、クスっと笑う。

「オッチャン、怒ってること全部、フリードマンっていうひとに放り込んでるよ」

「酒場には、ヒールが必要なんや。もはや彼の時代でもないんやけど、残念ながら、その薫陶を信じた人間が、いまのリーダー層にぎょうさん残ってんねん。

あれは学問の功績以上に、経済学へ権力闘争を持ち込んだ、イデオロギストやないかな……ワイはな、なにごとも短絡的にやり過ぎると、ある種の選民思想に行き着くんちゃうかと心配なんや」


1) 中谷巌 細川内閣、小淵内閣ブレーンとして、規制撤廃、構造改革を推し進める急先鋒であったが、行き過ぎた新自由主義や市場原理主義、グローバル資本主義のもたらす弊害に限界を感じ、警鐘を鳴らす側に転向する

2) 司馬正次 TQM(トータル・クオリティ・マネジメント)の世界的権威として知られるが、インテル創業者のアンドリュー・S・グローブ著『パラノイアだけが生き残る』(日経BP社)に衝撃を受け、常識を越えたブレイクスルー型マネジメントの必要性を解くようになった。デミング賞本賞受賞

3) ホモ・エコノミクス ブリタニカ国際大百科事典より

次回更新は11月26日(水)、11時の予定です。

 

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