ある時思いつきで不要になったカレンダーの裏面に二つの質問を書いてみた。

①今までで一番楽しかったことは? ②今までで一番悲しかったことは?

①番の問いには答えず、暫し考えていた貞さんが書いた②番の返答は、「B29により家を焼かれた」。予期せぬ返答に愕然とした。そうなのだ。

今でこそ平穏でご機嫌で、私のお気に入りのテレビのバラエティー番組『チコちゃんに叱られる!』のあの5歳児に「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と怒られそうな貞さんだが、その長い97年の人生には私など想像もできない色々な出来事があったのだ。そんなすごい人生を生き抜いてきたのだ。すごいぞ貞さん!

大好きな『男はつらいよ』のお兄ちゃんのあの口上が浮かぶ。

「よお、爺さん、あんたすごいな。『大したもんだよカエルのしょんべん。見上げたもんだよ屋根屋のフンドシ』」

貞さんに聞いたことがある。

「お父さん、今幸せ、普通、不幸せ?」

旅行が好きであんなに動き回っていた貞さん、今では家で四脚杖の籠の鳥だ。

良くて「普通」の答えが返ってくると思っていた。それが「幸せ」だという。

驚いた私がその理由を尋ねると、少し照れたような顔で「お前がいるから」と言った。貞さんお得意の「オトボケ」か。まあいい。

カレンダーの裏面に書いた2つの質問

貞さん、いつまでも元気で、そして天寿を全うしてほしいと思う。