【前回記事を読む】この同居人、たまに機嫌がいいと私のことを「お父さん」と呼ぶ。ということは、この口うるさいおばさんが、私の娘なのか?

1 吾輩は年寄りである

真昼の決闘 バトル2

後手 エツコ

時々貞さんの脳内チェックをする。ボケられたら大変だ。刺激を与えねば。

年齢を聞く。暫しの時があり半分あくびをしながら面倒くさそうに「19」と答える。ダメだ。大分きている。

家事が一段落し、今朝方ポストから出し、置いておいた回覧板に目を通す。

「新成人の皆様へ」とあり、来春成人を迎える人の欄にすでに記入がある。うちの班内で成人を迎える方がいるのだ。どのお宅だろう。隣家の男の子も最近あまり見かけないが、もうそんな歳かもしれない。それにしてもこの筆跡。若者の力強い筆跡とはほど遠い、ミミズがのたうち回ったようなか細い見覚えのある字。目ん玉を近づけてみる。

「車貞雄、男、平成13年11月26日生、葛飾柴又」

啞然! なんでここに貞が出てくるのだ。食いしん坊の貞、祝い品を紅白饅頭とでも思い、それに目がくらみ、あわよくば頂戴しようという算段か。

うら若き乙女が2、3歳サバを読むのは可愛いが、97歳の爺さんが77もサバを読むとは、なんたる図々しさ。世間ではそれを決して「可愛い」とは言わず、「ボケた」と言う。「おとぼけ貞」ここにきて全開。気づいて良かった。恥っさらしの公文書が市中に出回るところだった。

時計をチラッと見た貞が「さあ昼だ。めしめし」と叫んでいる。寝て、食べて、また寝るだけでなぜ腹が減る。

「あーお腹いっぱい」とこちらも負けじと叫ぶと、「お腹ペッコペッコ」と狸よろしく自分のビール腹をポンポン叩いている。実に不思議な生き物だ。

貞雄さん、貴方、平成13年ではなく、大正13年生まれです。