はじめに
2020年12月31日をもって私は40年働いた職を定年退職した。当時62歳、2年定年延長してのリタイアであった。
理由は介護がそこそこ大変になってきたのと、例のコロナで我が職場もご多分に漏れず、通常業務プラスコロナ対応で、結構大変になってきた。
で、「もういいか」となった。元々そんなにご奉仕するタイプの人間ではない。「もう十分に働いた」と。
さすがに退職後2年以上経った今となっては落ち着いてきたが、退職翌年のあの解放感、高揚感は第二の青春時代到来といった感じで、「日々何をしよう!」と好きなことに時間を使える喜びを享受していた。
もちろん、家事、介護とやるべきことは多々あれど、もう時間に追われることはない。好きなことができる。
今までやりたくてもできなかったこと。睡眠時間もたっぷりだ! 健康マージャン教室、パソコン教室、目についたものから通い始めた。
その中に大学の公開講座「物語をつくろう!」というのがあった。全6回のコース。講師のアドバイスを得ながら段階を経て最終的に一つの物語をつくればいいらしい。
書くことは嫌いではない。早速申し込んだ。まさかこれが自費出版へと繋がる第一歩になろうとは。この時点で何を書こうなどというはっきりとした思いがあったわけではない。
さて何を書こう。まず浮かんだのはやはり目の前の、日々奮闘している介護のこと。介護されている父親の視点から書いてみたいと思った。
常日頃から寡黙な父親が日々どのような思いで過ごしているのか、延(ひ)いてはどのような思いで介護されているのか興味があった。
黙っているからといって、決してすべてに満足しているわけではない。時に口をへの字に曲げ、時に下唇を突き出して不満やるかたない表情をする。
その度に「おっ! 何か言いたそう」「何考えてるのかね」と思っていた。この際、日頃の父親の思いを想像し、介護される側の視点、介護する側の視点、対比して書いたら面白いのではないかと思った。しかし書くのは日常の出来事。物語などになるのだろうか。
講師の先生曰く、「当人にとっては当たり前のこと、日常のことで気づかないけれど、他人が見れば新鮮で特別なことかも」と。そういうこともあるのだろうか。