思い出したことがあった。職場で同僚に、電話口で友人に、私はよく愚痴っていた。
「昨日腹立つことあってさあ。またあの父親がさあ」
最初は神妙に聞いていた彼らは、最後は皆同様に大爆笑している。
「何が可笑しいのよ! こっちはマジなんだからさ。真剣に聞いてよ!」
彼らは「まぁまぁまぁ」と慰めつつ「それ笑える! 本にしてみれば」と。
「はあ~そんな暇ないよ」でいつも会話は終わっていた。しかしそんな私に暇ができた。この父娘の日常を書いてみようか。
それで出来上がった「物語」が、本文冒頭の「吾輩は年寄りである」だ。自分としても上手くまとまったし、先生、講座の仲間にも好評だった。
シャンシャン! これで手締め。すべて終わりのはずだった。
ところがそれで終わらず、「本を出してみたら」という話になった。「言葉が輝いている」とか「センスがある」とか、今までの私の人生で聞いたこともなかったお褒めの言葉の数々を頂いた。半信半疑、俄かには信じられない。
あんなふざけた文章のどこがそんなにいいのか、褒められれば褒められるほど意味が分からなくなり戸惑うばかり。でも……
「そんなに皆さん言って下さるなら」と、豚もおだてりゃ木に登る。それに倣って私も還暦過ぎて木に登ってみることにした。それで出来上がったのがこの本だ。
本を出すにあたり、慌てて、日々のエピソードを思い返しながら、残り16作を書いた。「吾輩は年寄りである」で完結、書き切った感があったので、書けるのかと不安だったが、振り返ればあんなこともあった、こんなこともあった、と一気に書き進めることができた。
こんなふざけた父娘もいるのかと、笑い飛ばしながら読み進めてくれたら嬉しい。
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