第1章 人を育てる

1、人を信じる

(1)信じてこそ人は育てられる

① 現場社員のミス

私が三洋電機冷凍機事業部・事業部長として事業部の経営再建に従事していた時の事例です。就任して1年目の夏のことでした。品質の改善が再建のための最大の課題でしたが、早くも改善が進み、社員のモラールも高まりこれからという時に残念ながら品質不良が発生したのです。

品質意識を強調する意味で品質会議は毎月2回事業部長室で行っていましたが、その席上で、不良の原因は製造現場社員が独断で作業条件の変更をしたことにあるというので、製造課長が非難の集中砲火を浴びていました。

作業指示書に記した作業条件を製造現場で書き換えた証拠を示しての批判だったので、反論の余地はなく製造課長は顔を紅潮させながらもひたすら批判に耐えている様子でした。

私は、やり取りをじっと聞きながらこの場をどう収めるべきかを考えていました。そして、議論が一通り終わり結論が見えてきたのを見て次のように締めくくりました。

「非は製造部にある。しかし、私は担当者の善意を信じたい。恐らく担当者の真意は、気候によって作業条件が微妙に変わることを考慮して、最も能率の良い作業条件を採用しようとしたのではないだろうか。最近製造部で進めている生産性向上活動の自主的な高まりを思うときっとそうに違いないと思う。

しかし、一定の手続きを経て定められた作業標準を、現場で勝手に変更したことは正しくない。作業標準を改める必要が生じた時は、原則としてそれを定めた時と同じ手続きを経て変更されなければならない。この事を製造部をはじめ関係各部門の担当者に改めて徹底願いたい。

生産技術部は早急に変更の必要性をチェックすると同時に、事の真因を究明されたい」

その後、同じ工程が隣のBラインでは問題が無かったことから、真の原因は問題のあったAラインの制御装置にあることが判明し、根本的解決を見ることが出来ました。

その後聞いたところによると、問題になったのは夏休み直前の暑い時でしたが、当該作業員は自ら夏休みを返上して、作業条件と品質の確認の為に精力的に努力してくれたとのことでした。“信じれば人は応える”の思いを強くした一件でした。30年以上たった今でも決して忘れることはありません。

 

👉『人を育てる』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】彼と一緒にお風呂に入って、そしていつもよりも早く寝室へ。それはそれは、いつもとはまた違う愛し方をしてくれて…

【注目記事】「おとーさん!!」救急室からストレッチャーで運び出される夫に叫ぶ息子たち。変わり果てた父親を目の前にして…