【前回の記事を読む】【舞鶴市の歴史】どちらからいらしたんですか、と女性。土地の人間ではないとすぐにわかるのだろう。東京です、と言うと…
東舞鶴 八月十二日
かぐわしき舞鶴の
奥から暖簾をかき分け、長い髪を束ねた女性がカウンターにあらわれた。私がTシャツの左の袖に煙草を包んでいるのを見て、それ何してはるの、と髪を結った女性。
煙草をジーンズのポケットに仕舞うと、箱がクシャクシャになっちゃうからこうしてるんです、というと、おもしろい煙草のもち方やね、初めて見た、と髪を結った女性は笑った。つづけて、何で舞鶴に来はったんですか、何もないとこでしょう。
昔の軍の施設があった場所とか、そういうところを見てまわるのが好きなんです、と私。と隣の男性が、今までどんなところに行かれたんですか。
私は、過去に旅した旧満洲や沖縄のことを話し、男性には、これまで原付バイクで訪れた街のことをたずねた。
明日、旧中舞鶴方面を散策することを伝えると、女性お二人は、街の中心部の運動公園に、昔の中舞鶴線の機関部が展示されていると教えてくれた。
ひとしきり話を終えたところで、隣の男性がお愛想を頼んだ。
髪を結った女性は、お二人が舞鶴に来てくれたことがほんまにうれしい。こんな京都の片田舎によう来てくれて、と微笑んだ。
店を出た男性と入れかわるようにして、常連さんらしい年配の男性が三人ほどたてつづけに入店してきた。賑わいを増した店内で、私は本を読みながら、濁り酒を二杯飲み、締めにそうめんを食べた。
ごちそうさまでした、と会計を頼むと、女性お二人は関西弁のイントネーションで、ありがとう、とかわいらしく笑った。
ホテルの人がこの店を紹介する理由がわかる気がした。土地の素朴な香りが、かぐわしいからだ。
部屋に戻ると、シャワーを浴び、すぐにベッドに横になった。
明日は、古の軍都まで歩き通しの一日になる。
ベッドで『舞廠造機部の昭和史』のつづきを読みながら、瞼が重くなるままに眠りについた。