何日かして、彼がまだ準備のできていない私のクリニックへおみやげを持ってやって来た。近所のおじさんに車で送ってもらったらしい。にこにこして、見つけたぞっていう感じ。クリニックの待合室であちらこちらを見て、もう安心といった状態である。
開院式の日にまた来た。今度は自分一人で自転車で来たという。朝一番に来て悪びれる様子もなく、たくさんの招待客が出入りする中で、彼はじっと座っていた。
私が祝賀会場へ向かおうとすると、これを持っていけと私の好物の巻きずしといなりずしをくれた。小さいのでいいからと言うと、いや大きいのをあげると言ってきかない。そのあと彼はまた覚えた道を自転車で帰っていった。
開院祝賀会ではたくさんの先生方や同僚や親戚からお祝いの言葉をいただいた。笑いと友情あふれる友人の励ましの言葉に、会場は大いに沸いた。瞬く間にプログラムは進行し、丁寧に招待の方々をお送りしたあと、スタッフと数人の友人とでクリニックに帰った。
あいさつ回りで食事が摂れなかった私のおなかはぺこぺこだった。彼に朝もらったおすしを思い出した。それを取り出してきて、ビールをいただきながら、祝賀会でのたくさんの人の笑顔や言葉を思い出しながら、巻きずしといなりずしを食べた。一つ一つかみしめながら食べた。
これからもここに来られるという安心感と、私へのお祝いの気持ちが入っているようだった。それはまた素晴らしい友人のあいさつ同様、一生深く心にしみる味でもあった。
【イチオシ記事】彼と一緒にお風呂に入って、そしていつもよりも早く寝室へ。それはそれは、いつもとはまた違う愛し方をしてくれて…
【注目記事】(お母さん!助けて!お母さん…)―小学5年生の私と、兄妹のように仲良しだったはずの男の子。部屋で遊んでいたら突然、体を…