全くの偶然ではあるが、私もいつかこんな日が来るような気がしていた。当時の先生の気持ちがなんだか少し伝わってくる。先生も私も、公的病院からはみ出そうはみ出そうとしてきたところがある。

香川小児病院での勤務医としての23年間、そこで出会った多くの子どもたち。病気、家庭の問題、性格、挫折そして夢……。小笠原先生が人が大好きなように、私も人間が好きだ。特に子どもが大好きだ。

次回から、自分の見た子どもの世界を、昔の思い出や大好きな自然や遊びのことを交え
ながら、あわてず、気取らず、ゆったりと私なりに書いていこうと思う。

先生! おすし ―思いを超える純真さ―

心の美しさだとか、純真さだとか、こういうことを書いても今の時代、打算、虚栄、妥協、駆け引き、そんなことばかり考えてきたわれわれ現代人には実感の伴わない言葉かもしれない。また書こうとしてもうまく書けない。

しかしわれわれの思いをはるかに超える純真さに何度も出会うことがある。そしてそれは決まって、不幸にして障害を持った子どもたちと、その子どもを見守ってきた家族であることが多い。

私が小児病院を辞め、自身のクリニックを始めることになったとき、もう20年も診てきた子は何度も何度も私の辞める日を聞いた。いつも家から自転車で病院へ診察に来るその子は、外来に来るたびに聞く。

方向は全く違うけど距離は同じだからまた私のところへおいでよと地図を渡して何度も説明するが、やっぱりお別れと思っている。最後の日に来て、診察が終わっても私の白衣の端を持って離そうとしない。ようやく離したその目に涙をいっぱい浮かべている。