学校で上手くいけばいくほど、塾での晃の勉強に対するコンプレックスは大きく膨らんでいくようだった。健斗が「馬鹿」という言葉ではなく、敢えて「頭が悪い」という言葉を使うあたり、特別な悪意が感じられた。しかも洋子の前で。

――西野の前でわざと。

晃の中でふつふつと悔しさと怒りと、恥ずかしさが空回りして身体が震えた。

Bクラスの授業は苦手な数学。いつもと同じ数学の授業。講師の説明。教室のみんなは静かにノートを取っている。

講師の声と、鉛筆の動くサラサラという音。サラサラサラサラ……。

その音を聞きながら、晃はなんだか自分だけ違う空間にいるような気がした。

これって、本当にみんなはわかるのか? 自分にはわからない。自分だけなのか? 俺は馬鹿なのか? みんなと違うのか? こんな悔しい思いをしても、こんな恥ずかしい思いをしても、わからないものはわからない。

この俺の脳みそは一体なんなんだッ。

抑えきれない激しい感情。心臓がドキドキして、今にも脳の血管が切れるんじゃないかというほどの苛立ちに耳鳴りが聞こえた。

強い苛立ちに、突き刺すようにノートにシャーペンを押し当てて動かすと、ビリッと音がした。隣の生徒が驚いた顔で晃を見たが、目を丸くしたまま関わらないよう黙って自分のノートに視線を戻していく。

――恥ずかしい。できない自分も、苛々している自分も、どうしていいのかわからない自分も、すべてが情けなくてとてつもなく恥ずかしい。

晃は破けたノートを閉じて深いため息をひとつついた。

――人生は残酷だ。時に容赦ない。

 

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