その日の塾へ行く道中も、悟におだてられて晃は少し有頂天だった。ああ、この塾への道のりも、こう自由に楽しく喋れるようになりたかったんだな、と晃は思った。

塾に着いて教室の前で「じゃ、後で」という別れ際、洋子がやってきた。洋子は晃に気づくと、ちょっと微笑んで、

「ポスターおめでとう。すごいね」

と声をかけてきた。驚いたのは健斗と悟だった。二人は教室が一緒にもかかわらず、こんな風に洋子が親し気に声をかけてくるなんて想像もつかなかった。

「おうっ」と嬉しそうに、精いっぱいの男気な返事をする晃。

「山口君って何でもできるんだね」

思わず舞い上がる。すぐさま胸元で両手を振って謙遜しようとする晃より先に健斗が笑った。

「何でも? 勉強以外だろ? 晃、頭悪りぃからな。天は二物を与えずって本当なんだな。よかったな」

と軽く晃の肩を叩いて特進の教室へ入っていく。ぷっと噴き出して悟も健斗の後に続いていく。

晃の顔と頭にかぁっと血が上った。洋子も特に気にする風でもなく「じゃあ」と笑顔で特進クラスへと入っていった。

晃は身体中の毛穴という毛穴からパチパチと静電気みたいなものが出て、産毛が針みたいに立っているんじゃないかと思うほど、身体が硬直して動けなくなっていた。