【前回の記事を読む】「早く自由になりたい」好きなことは絵を描くこと。でも友人の話題は勉強ばかり...次第に劣等感と疎外感が募っていき...
2 中学生
微妙なバランス
晃はどんどん勉強が嫌いになっていった。そして嫌いになればなるほど、勉強以外の色んなことにどんどん興味が深まっていくことに気づいた。ゲームは元より、絵もスポーツも、無我夢中で打ち込める。勉強しなくてはと思えば思うほど、他のことに熱中する。
夜になっていい加減宿題をしなくちゃいけない時間になると、急にジョギングに行きたくなって、陸上部員顔負けなくらいの距離を走り込んだりする。逃避? 逃避だっていいじゃないか。どれひとつとっても自分には意味のある、今しかできない大事なことなんだから。
そして、その思いが晃の勝手な思い込みではないと思える日がやってきた。
ポスター表彰
「山口晃君」
その日の朝、全校集会でただ一人名前を呼ばれ、晃は表彰台の上の校長先生の前へ一歩進んだ。
消防庁から晃の描いたポスターが金賞に選ばれて、地区ポスター大会金賞受賞式が全校生徒の前で行われた。
晃は表彰台の上で校長先生から表彰状を渡され、うやうやしく一礼して受け取った。なんとも誇らしい。認められるって、なんて心が潤うんだろう。久しぶりに味わう肯定感。いや、これが心の余裕というものに違いない。自分が好きで得意なことをして、他人から評価される。焦りや卑屈になることもなくて、のびのびと自然体でいられた結果がこれだ。
自分の列に戻る途中、友達から肩を叩かれたり、拍手されたり、声をかけられたり。友達は晃に、運動だけじゃなくて、絵のセンスもあって羨ましいと言う。
これって、まるで羨望の眼差しじゃないか。校長室前に貼られたポスターを見る友達の眼差しが温かく感じられる。
重石のように自分を押さえつけてきた勉強コンプレックスが、一時的にでも脇にどけられたような解放感だった。