それから20年。あるお葬式でケンはお絹さんと出会った。お絹さんはすっかり白髪のお婆さんになっていた。しかし、あの親切な心は少しも変わっていなかった。懐かしそうにケンの手を握りながら、「ケンさん、すっかり偉くなりなして……。学校の先生様になりなしたってのー。よぉーがんばりなしたの……」。

そして、昔あったいろいろな思い出を昨日のことのように語った。しかし、「この子ばっかしゃ」 の言葉は出なかった。
 

第三話 ケンは熊?  それとも猿?

ケンはいつものように友達と山に行った。ところが家に帰ると急にお腹(なか)が痛くなり転げ回った。母ちゃんは急いで輪タク(人力車のタクシー)の勘次さんを呼んでケンを病院に運んだ。ケンは病院に着くなり、またうんうん唸って、苦し紛れに身体を右に左にごろごろと転がし、のたうち回った。

先生に浣腸され、腹の中のものがすっかり出つくすとようやくケンは落ち着いて眠った。しばらして目を覚ますと母ちゃんが心配そうに横に座っていた。

「ああ、死ぬかと思った」と晴れ晴れした顔で言うと、母ちゃんは「こんげにしょうしい(こんなに恥ずかしい)思いをしたことは初めてだて!」とケンを睨む仕草をして言った。「なんで」と聞くと、診察の結果を話してくれた。

先生はケンのおなかのものを全部出した後、消毒したという。そして「お母さん、ちょっと見に来てください」と手術室に案内し、机の上に置かれたバット(平皿)を見せた。そこには十分に消化しきれていない樫(かし)の実や山葡(やまぶどう)の種、山梨(やまなし)の種、石榴(ざくろ)の実(種)、生栗(なまぐり)などが丁寧に並べられていたという。

「お母さん、謙治君はどういう遊びをしているんですか。これらは熊や猿の食べ物です」

母ちゃんはその時、顔から火が出るような恥ずかしさにおそわれたという。ケンはその日から即、入院。「一週間、絶対安静」を言い渡された。見舞い客が持ってきた菓子や果物の缶詰も絶対ダメ!。とはいえ、実際には五日目からはもう元気になっていた。

 

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