【前回の記事を読む】「高い!」「当たり前だ。ヤミだがんに」戦後の時代をしたたかに生きるケンが、やみ米を入手するために考えた策とは?
第三話 ケンは熊? それとも猿?
病院の院長夫人が彼の部屋にひょいと顔を出すと、「暇でしょう。遊びに来なさい」と母屋に案内してくれた。そこには最近発刊された『おもしろブック』(少年少女雑誌、集英社)や『冒険王』(漫画雑誌、秋田書店)などの雑誌がずらりと棚に並んでいた。
さっそく手に取って読んでいると、院長夫人は
「うちでは毎年、粽(ちまき)を作っているんだけど、それを巻く紐、菅(すげ)というの? それがなかなか手に入らないのよ。菅ってどんなところにあるの? どうやって見分けるの?」
と聞いた。
「茎が三角だすけ、すぐわかる。菅はだいたい日当たりのいい場所に生えている」。
ケンは方々の山中を駆け巡って遊んでいるので菅のある場所もたいがい知っていた。ほとんどが断崖絶壁の危険な場所に生えている。ところが院長夫人はそんなことは無頓着。
いとも簡単に「じゃ、さっそく採ってきてね、お願い」 と頼んだのである。
もちぐさよって、ケンは毎年、院長夫人の菅採りをするようになった。そのほかに笹の葉や餅草(=よもぎ)など、山のものをいろいろ頼まれるようになった。
奥さんも奥さん、山の子を上手に使ったのである。院長先生も見て見ぬふりをしていた。
そして、ケンもケンである。入院したことによってチャッカリと春の山菜を採るアルバイトを確保したのであった。
第四話 杉(すぎ)っ葉(ぱ)拾い
秋の大仕事
かつての燃料は薪(たきぎ)を主とした。特に粗いものを「薪(木炉=ころ)」、一般に「割木(わりき)」という。細い枝や木を「ぼい(焚萓=柴木)」といい、普通の煮炊きにはこの焚萓(ぼい)を焚いていた。さらに「焚き付け」として枯れた杉の葉、「杉っ葉」を用いた。
杉っ葉は油を含み、燃えやすく火力が強いことから大変重宝がられていた。値段も焚萓が1把(わ)23~25円なのに、杉っ葉は40円と高値であった。
「杉っ葉拾い」とは、枯れた杉の葉を拾い集めることであるが、実際には木に登って枯れた枝を落とし、それを束ねていた。