アサオはそれが不満で本当はピッチャーをやりたかった。しかし、腕が短いのでコントロールが悪かった。

5年になって担任が替わり、教育熱心なY先生はアサオに国語の辞書2冊と自由国民社から出されている『算数の自由自在』という参考書を買い与えた。アサオは熱心に勉強して、成績も上がり算国理社はすべて5だった。

優秀な少年へと育ったアサオは両親の将来への期待を一身に受け、私立名門男子校、T中学への進学を勧められた。アサオはその気になり塾では、中学2年で習う連立方程式を小学校で早くも解いた。

アサオの父親の経営するガソリンスタンドは、モータリゼーションの好景気の中、繁盛し、市内に10ヵ所も営業所が置かれていた。

母親は日曜日になるとアサオを連れて、デパート松坂屋へタクシーで買物に出かけた。母親が松坂屋の最上階のビュフェでごちそうしてくれるフルーツアラモードが食べたくて、アサオは率先して荷物の持ち役を引き受けた。

まだエレベーターガールが居て、エスカレーターも設置し始めの頃で店員がつきそった。 その頃、名古屋にも栄から名古屋駅迄、地下鉄が走り出した。

アサオと母親は用もないのに地下鉄に乗ったがゴーゴーと、すごい音がするだけで窓の外はまっ暗、期待外れだ。

母親は6年になると中学受験の為、野球部を辞めるようせまった。

担任の野球部の先生も、小学校からそんなに勉強ばかりせんでもいいのに、と言ったのでアサオは父親に直訴した。お父さんは「T中学に入ってから野球をやればイイ」と言った。

 

👉『老いてなお花盛り アサオ75歳の青春』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「私、初めてです。こんなに気持ちがいいって…」――彼の顔を見るのが恥ずかしい。顔が赤くなっているのが自分でも分かった

【注目記事】「奥さん、この二年あまりで三千万円近くになりますよ。こんなになるまで気がつかなかったんですか?」と警官に呆れられたが…