【イチオシ記事】主治医のI先生から、72時間の「隔離」行きが命じられた。4m四方の板に挟まれただけの部屋で、トイレ用の穴と布団ワンセットだけ…

第一章 老いてなお青春

日常生活の悲喜劇

久しぶりの風呂でアサオは手足を伸ばした。隔離に戻され食事が用意されていた。置いてあった水がスポーツドリンクで担当看護師の優しいK子さんがコンビニで買ってきてくれたものだった。

K子さんは40前後の二人の子のお母さんである。前の旦那さんと別れて二人の子を育てる苦労人だった。大きな体でいつも病棟の廊下を歩くのは大変そうだった。長男のA君はアサオの母校、H高校の後輩で本年めでたく入学してK子さんも嬉しそうだった。

アサオは味のない病棟食を食べ、ベッドの置いてない床にじかに敷いた布団に寝て、手帳を開き思いついた病院への不満、自分の歩いて来た人生への後悔がアサオの胸をよぎる。窓から見える満月を見ていたら自然と熱いものが込み上げてきた。

72時間たって師長のSさんとI先生が隔離に来てくれた。無事解放。

さっそく部屋に戻った後、100円コンビニへコーラを買いに走った。なんと言ってもアサオの好みは炭酸飲料である。同室の鴨ちゃんが話しかけて来る。またアサオは涙が込み上げてきた。

気がついたらもう午後4時、点呼の時間だ。全看護師が手分けして全病室、全人員と確認する。患者は4時になると自分のベッドに戻り、朝の7時に開いた病棟の入口が閉まる。

点呼が終わると自由時間、Mちゃんと将棋をヤル。Mちゃんは耳は聞こえないが将棋は強い。5時50分になるとデイルームで夜勤の看護師が食事を配る。1時間前から患者はデイルームに箸とマグカップを持って集まりだす。8時30分睡眠剤の入った就寝薬を飲む、9時消灯。決まった流れで一日が終わり、9時も過ぎれば、睡眠剤の入った薬が効いてきてぐっすり眠ってしまう。

イベントの歓喜

今日は文化祭だ。アサオは朝からハイテンションだった。アサオの統合失調症は以前のI先生はもう寛解していると言って、残存状態であるということ。だが今でも自生思考と易怒性・不眠がある。自生思考とは勝手に思いが自分の頭の中でグルグルと回転して、知らぬ間に時間が過ぎている状態を言う。寝れない時などに起きる。昨夜はちょっと睡眠不足だ。

朝から食券が配られ、病院内到る所に模擬店が出る。体育館では催し物や展示物、アサオの好きな将棋の対抗戦もデイケアの室である。デイケアとは退院した人が9時頃から3時頃迄、病院のデイケア室に通って、いろいろな活動をしている。