駅からアパートまでは、徒歩十五分。

だんだんとすれ違う人が少なくなり自分の影だけを引き連れて歩いている。

「影法師……」

枯れ葉のような呟きを一つ落とせば、続けて言の葉が落ちた。

お、なんかいいのできそう。

「影法師、共にあっても帰り道……」

紡いだ言葉の置き場所はいつもここ。慣れた動作でSNSを開いた。

「鼻歌重ならず一人分かな」

うん、これでよし。

アカウント名は『生姜を赤く染め衛門』。

写真などないプロフィールの説明欄は『短歌作りが趣味。勉強中です。牛丼の紅生姜が好きです。よろしくお願いしますに』と書いたままだった。

アカウントを作ってから数ヶ月経つのにプロフィールの最後の誤字さえ直していない。

思いついた短歌を入力すると投稿ボタンを押した。するとすぐにいいねとリアクションがついた。いいねボタンを押してくれたユーザーを確認する。

あ、またこの人だ。

アカウント名は『歌仙敷』。さすがにこんな早くリアクションをくれるのは稀だが、毎回いいねボタンを押してくれるユーザーだった。