パリの出来事

もう随分昔のことであるが、サロンの皆さんと一緒に、会社ご招待の海外旅行でパリに行った。確か10人位だったと思う。

滞在中はセーヌ川、凱旋門、ベルサイユ宮殿、オペラ座と観光をして歩き、気分はすっかりパリジェンヌの乙女達!

この時の旅で忘れられない出来事が幾つかあった。まずオペラ座の近くのレストランで食事をした時の事である。そのレストランでテーブル担当のギャルソンの人が、どういう訳か私を気に入ったらしく、呼びもしないのにテーブルに来る。

それも何度も私のすぐ側に張り付くように来ては、いつの間にか「マイリトルバード」とか呼び始めたのである。離れたかと思うと私と目が合うような位置から、ウィンクしたり色んなジェスチャーでアピールするのだった。

途中からは「リトルバードを懐に入れて自分の家に連れて帰りたい」的なことを、英語で何度も言うのである。さすがに私も下手な英語で「私には、日本に夫がいるので、帰らなくてはならないの」と一生懸命に断った。

風習が違うせいか私に頬ずりをしようとするわ、ハグをしようとするわ、手をとりキスをするわ。私は逃げながら「ハズバンドが……」と繰り返したのだった。今考えるとフランス人特有のユーモアだったのかもしれないが、日本に帰ると暫くサロンでは「リトルバード」と皆に呼ばれていたのである。

このマイリトルバードも楽しい出来事だったが、今考えても怖い出来事もあった。

パーティーが終わりそれぞれの部屋に戻ろうと、ホテルのエレベーター前で大勢で待っていた時である。一緒に行った1人が「チーフ、チーフ」と蚊の鳴くような声で私を呼ぶのだった。「なぁに?」と言う私に「お財布、お財布」と繰り返して言っていた。「エッー、お財布はここにあるわよ」とショルダーバックを確かめると何と、お財布がない。

「ないわ〜!」と、大きな声で叫ぶ私に「チーフ、あの男が……」と指し示す方を見るとアラブ系の大きな男性2人が、足早に立ち去ろうとしていた。私は咄嗟に追いかけて行き、その男性の1人の腕を掴み「私のお財布を返して」と言った。

すると男は、着ているコートのポケットに手を入れたまま大袈裟にコートを広げて見せた。ポケットなどを探したが、私のお財布はなかった。心のなかでは(マズイ、本当になかったらどうしよう)と思う私だったが、何とコートを広げて見せる時に私のお財布を上手に隠し持っていたのである。幸運にも、それを発見することができたのだ。

ホッとした私に「ソーリー」と言い、いとも簡単にお財布を私に返してサッサと立ち去って行った。

 

 

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