「あのね、SNSは社外に発信するものだから、失敗は許されないものなの。いくら前職で似たような仕事をしてきたって言われても、さすがに入社してすぐの子には任せられないかな」

「だったら、俺からあの炎上について、何が問題でどう対処するのが最善なのか言語化出来ます」

「え……」

「さっきのミーティング、俺も聞いてましたけど岩下さんも水瀬さんも、言語化出来てなかったですよね」

「……それはそうかもしれないけど、それをコンプラ部の人たちと一緒にそれを考えてもらうように言ったんだから……」

千春も、そう言いながら痛いところを突かれたとは内心思ってはいる。

「今回の件は、過去の投稿内容なども含めて積もり積もった物があると思いますが、あの投稿だけでもひどいと思いますよ」

「じゃあ、どこがひどかったか、吉川くんの意見を聞いてもいい?」

「さっき送ったメールにも書きましたけどね」

「あ、そう……じゃあそっち見るね。その間、何か、適当に資料見るなり社内wiki漁るなりしておいてくれる?」

「わかりました」

礼から来たメールを開き、下までスクロールする。

(長いな……今日入社したばかりの人に指摘されるような改善点がこんなにあったなんて……)

さっき岩下と話し合ったことにも触れ、吉川はその上でいくつかの提言も書いていた。

『SNSでは企業アカウントも増えましたが、それによって従来のやり方だけでは通用しなくなってきています。中の人のキャラクターをプッシュしていくべきでない場合も往々にしてあるし、一方的な広告の発信は嫌われるようになってきました。

SNSの利用者も馬鹿ではないので、自分の有意義な情報を出してくれるアカウントでないとフォローしてくれません。相手が求めている情報を出すこと、相手にとって得があるものをきちんと伝えられるアカウントでないとSNSをやるメリットは殆どないと思います』

その他、この広告自体をどう直したらよいか、どういう謝罪をすべきかなど、細かく提案を書いてある。

「吉川君……これ、さっきの時間に考えたの?」

「炎上については今朝、電車の中で気づいて考えました」

「そっか……証券関連の知識もあったりするの?」

「前職の顧客がこういう業界だったので。それほど詳しくはありませんが、一応入社前に少し勉強はしました」

(そっか……意外と仕事に前のめりなんだ……)

「そこに書けなかったことで、1つだけ言いたいことがあるんですけど」

「うん? 何?」

「コンプラ部に出したからうんぬんってさっきのミーティングでおっしゃってたんですけど、その認識は甘いと思いますよ。さっき人事の方に案内されてコンプラ部の人達も見てきましたけど、彼らがあの投稿を女性軽視だと判断するのが難しいだろうと思いましたから」

「……というと……?」

「まぁ、有り体に言うとおじさんばっかだから、ですね。同質な人ばかりで構成されていると、思想が偏るんですよね。別におじさんだからってわけじゃなくて、男性でも女性でも、若くても年をとってみても」

「……そう言われたら、そうだね……」

思い出す限り、コンプラ部は40,50代の男性ばかりだ。あとは事務の派遣社員が数名で、女性はいるが広告審査に口をだすことはない。

「広告審査は審査基準に照らして判断するから出来たとしても、今回の広告のターゲットになっているような人たちの気持ちはわからないと思います。コンプラ部のこと、そんなに信用しないほうがいいと思いますよ」

次回更新は10月23日(木)、11時の予定です。

 

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