「……シュウトは、Z世代っていうひとだろ?」YOさんが、再び若者に話を振る。

「そうらしいんですけど。僕は渋谷へ遊びに行かないし、タイパなんて関係なく、やっていることにのめり込んで、無駄に徹夜するし。ナントカ世代っていわれるラベルを貼られたくない感じのほうが強いです。友達にも、いますよ。

『ここはちょっと、Z世代っぽいことでも言ったほうが、おじさんやおばさんたちのマーケティングには、都合がいいんだろうな』みたいに他人ごとなの」

リョウコさんは頬杖をついて考えている。気の利いたバズワードを世代にくっつけておけば、カンタンに理解できた感じがするのよね。でも、どこかで理解するのを表面で済ませ、あきらめているような。あなたたちが、そこから引くの、わかる気がするわ。

「ねえ、Keiさん。パーパス、パーパスって、バズっているのは、社訓、社是と、経営理念と、経営ビジョンと、どう違うのかしら?」

「あはは。専門家のあいだでは、それぞれ厳密な定義があるのかもしれませんけどね。正直、同じお子様ランチの上に、違う旗が立っている感じはあります。

ただ、時代がサステナビリティのほうへ向いているので、これまで企業は経済のためにあったところが、社会のためにどうあるべきか考えよう、という点は違います……ん? それってべつに、ビジョンでもいいですかね」

「澁澤栄一さんとセットで言われる〈経世済民〉じゃないけど、もともと会社は、世の中のことを考えていたんじゃないの?」

「忘れちゃったんですよ。社内とライバル会社ばっかり見て競争しているうちに」

「ボク、このあいだクライアントと話していて、すごいパーパスに出会いました。そのひとは、自分の業績目標のことを、〈パーパス〉って言ってました」

Keiさんには、ジョージの言うことがよくわかった。経営陣と、本社スタッフと、現場とのあいだで、同じ言葉を共有しても、いつのまにか意味が行き違ってしまうことが多々あるのだ。言葉はわかり合う起点にもなるけれど、理解のギャップをひろげる争点にもなる。

次回更新は10月22日(水)、11時の予定です。

 

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