【前回記事を読む】「貴方に付かせる精霊を聖地から召喚します」――顔をほころばせながらそう語りかけてくる彼女は何歳なのだろう…?
序章 新たな預言
英良の章(一) 振出し
「聖地から召喚する精霊は水の精霊と火の精霊。水の精霊は生命の雨を降らせ貴方に従順な存在となるでしょう。名をユタと言います。それに火の精霊は古より数々の悪魔や闇を淘汰した精霊で名をギギと言います。
こちらは少し気難しいかもしれません。プライドが高く人間を信用しない性格ですので気を付けなさい。でも安心なさい。貴方の力を認めたらユタ同様に従い貴方を守るでしょう。いいですね英良。これから聖地へ向かい光を放つのです。光が溜まり次第二人の精霊は貴方の元へ来るでしょう。さあ始めなさい英良」ジェシカは指示した。
英良はどうしたらいいのか分からずただ祈った。ただ黙とうした。
「いいでしょう。それです。上手くいくでしょう。数日の間待ちなさい。たぶんユタから声が掛かるでしょう。貴方に平和がありますように。シャローム」そうジェシカは言った。
英良の意識はまだ深い淵の中にいるようだ。周りは暗い。陽の光が当たらない薄暗い町のようだ。早く抜け出したかった。身体が軽くなってきた。眼を開けると自分の部屋だった。まだあの深い淵の中にいる感触が抜けなかった。なぜだか疲労を感じる。
時計の針は午前五時を指していた。良かったまだ寝られる。そう思うと再び睡魔が襲って来た。
何もない日が続く。こんな日が永久に続けばいいと英良は仕事を終えいつも通り帰宅した。風呂から上がり冷蔵庫にあった人参やピーマンそれに玉ねぎを切り豚肉を細かく切って野菜炒めを作りビールを飲みながら何も考えずに時間を過ごした。
今日も一日何もなく過ぎようとしていた。床に入ったのは午後十一時。今日もその日のうちに寝ることができた、とそう呟くと一度小さく深呼吸をした。
どれくらい時間が過ぎたのか分からなかった。突然英良は脳の前の方に痺れを感じ目を覚ましたが眼が開かない。開かないと言うより眼も痺れて開けられなかった。やばい、そう英良は思うと何かが聞こえてきた。
「私はギギ。聖地から召喚された火の精霊だ。極東へ行きある人間に仕えるようジェシカ様から言われてきた。しかし私は人間という奴が嫌いだ。その嫌いな人間に仕えることは自分ではなくなるからだ。
ジェシカ様が言われたからにはかなりの力を持つ人間なのだろう。少し試させてもらうぞ極東の人間とやらの力を」そう言うと英良の脳の痺れは強くなってきた。
「南無妙法蓮華経」と英良はとっさに唱えた。脳の痺れは止まらない。眼も開けられない。もしここで眼を開けたのなら何が眼の前にいるのだろうか。開かないほうがいいのかもしれない。いや開かないでおこうとすら思った。