「私は過去数千年多くの闇や悪意ある人間と対峙しそれらを退けてきた。この力に耐えきれない者に私は仕えることはできない」英良の脳内に声が響く。

「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」英良は唱え続けた。一分ほど経ち痺れはなくなってきた。

英良は五感を集中させギギの気配を捉えようとしたが何も感じない。突然、ギギの気配が消えてしまった。なおも英良は神経を集中させギギの気配を追う。遥か遠くから救急車両のサイレンの音が聞こえる。

普段では拾えない遠くの音が感覚の中へ入ってきた。英良の五感は既に精錬された鉄のようになっていた。もう痺れは何処にも感じない。英良を襲った何か他の力は払拭されたというより最初から抗えないものと思い全てを無に帰すように無くなった。

多くを語らないギギは全てを認めたように突然消えた。それが英良に仕えるという意志だったようだ。

「英良様」と誰かが呼んだ。男か女か分からないような不思議な声が聞こえる。ギギの声とは違う。何か落ち着きと安らぎを感じさせる声だった。

「私はユタ。聖地からジェシカ様に呼ばれて極東の地へと召喚された水の精霊です。私の声が届きますか英良様」ユタは言った。

何も見えない。何も捉えることができなかった。ただ不思議なことに暗闇の中は暖かい。何だろうこの気持ちは。そう思っていると一本の水色の光が射してきた。その光は生きているように動き、それは懸命に姿を整えているようだ。程なくするとその光は人影のように形を変えてきた。

「英良様。私の姿が見えますか?」ユタは訊ねた。

見える、と英良は呟いた。

「私はいつも水蒸気となって空中を漂っています。今はちょうど英良様の真上にいますがお分かりになりますか。私は水の精霊で主な力は生命の雨を降らせることです。聖地から召喚された理由も英良様に仕え守ること。これからも何か気が付いたことがあれば英良様にお伝えしましょう。

今もささやかながら生命の雨を注いでいます。それでは何かありましたらお呼びください。英良様はもうお休みください。私はこれで」

ユタはそう言うと元の水色の光の筋となり暗闇の中へ消えていった。

英良は目覚めた。時計の針を見ると午前六時十分前だった。久しぶりによく寝られ疲れが微塵もなく身体中が軽く感じたことに気が付いた。

 

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