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じゃり、と石を踏む音が近くでして、はっと我に返る。
ゆっくり顔を後ろに向けると、さっきあたしがのぼってきた坂道を四、五メートルほどくだったところから、こちらを見あげるように立っている女の子と視線がぶつかった。
あたしと同じ白いセーラー服。胸当てのないホライズンブルーの襟。東雲色(しののめいろ)――夜明けの空の色――のスカーフを、きっちりと三角タイにして結ぶのが常桜学院高等部の伝統だ。
ざっと洗ってそのままほったらかしにしたみたいな、ラフっぽいウルフカット。その両脇から、耳の先だけがちょんと出ている。
前髪が半分くらいかかった眼は、少し眠そうな感じ。鼻筋から両頬にかけてそばかすを散らした顔は、無表情というよりも無愛想。
その顔でさらに両目を細め、〝ん? あんただれ?〟と、まるで不審人物の検分でもするみたいに首を軽くひねる。
あたしは、ひまわりの前でかがめていた身体をゆっくりと起こした。
不意に強い風が駆けぬける。まとめていない髪が激しく乱され、ほつれた毛先がくちびるに張りつく。
それを吹いて飛ばすように、あたしは、ふう、と息を吐いた。それから、ちょっとした清めの儀式のように手のひらを合わせ、ぱんぱんとはたく。
それを合図にしたみたいに彼女が歩きだし、あたしとの距離を詰めてくる。
その距離が、ふつうに言葉をかわせるくらいにまでなったとき、あたしは、無意識のうちに、彼女の制服の胸ポケットにとめられている学年章を確かめた。
2―Ⅳ……まちがいなくあたしと同じ二年生。つまり、彼女も合宿の参加者なのだ。
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