「ビルギット、それはスウェーデンには多い名前ですね。その次のアーシは手がかりになるかも」

とスマホで操作して、なんとビルギットの電話番号、年齢などの情報を瞬時に取得したようだ。

個人情報ということで教えてもらえなかったけれど、この方のいるところでビルギットと連絡が取れれば確実だと、その場でFacenote(実名登録が一般的で、リアルな繋がりを重視したSNS)のメッセージで「ビルギット! 実は今ストックホルムにいます。あなたにお会いできますか。電話番号と住所を教えてください」と送った。

通じればいいのだがと思ったが、Facenoteも使いこなしているビルギットの反応は速かった。

すぐに電話したら元気なビルギットの大きな声が響いてきた。挨拶を終えてサナさんに代わってもらった。全くわからないスウェーデン語でまくし立てるように話している。

顕治が再会する段取り、待ち合わせ場所など細かく話しているようだ。ふとチピタを見ると、うなずきながらサナさんのスウェーデン語を聞いている。チピタはスウェーデン語がわかるのか。別れ際にサナさんが顕治に言った。

「チピタさん、おきれいな方ですね。少しお話ししましたけれど、ストックホルムについてもよく勉強されておられるようですね」

嫌みのない率直なサナさんのお言葉に、顕治は何故かうれしく、ありがたいと思った。

サナさんと別れてから、チピタと二人でスルッセン駅からガムラスタン駅までの海沿いの道をゆっくりと進んだ。海はまるで鏡のように静かで、天空の雲が美しく映し出されていた。

そこには、多くのベンチがあった。多くの人が戸外を好み談笑している。顕治は落ち着いた室内を好むが、まだ再会したばかりでカフェレストランにチピタをお誘いすることをためらっていた。空いているベンチに腰をかけて、チピタと顕治は話し始めた。

「すいませんね、いきなり他の方との待ち合わせと一緒にさせてもらいました。どうでした、サナさんとのお話は」と顕治から切り出した。

「大変興味深かったわ。ストックホルムに24年もおられていろいろなご趣味もお持ちのようで、よい刺激を受けました。顕治さんの旅についても知ることができました。ところで書籍をビルギットさんにお渡しになるということをおっしゃっていましたが、顕治さんが出版された本なのですか」

「よく聞いてくれましたね。そうなんです、昨年9月に幻冬舎という出版社から『62歳、旅に出る!』という書籍を出版しました。その際ビルギットについても書かせてもらい、写真も掲載することを許可してくれたので、是非直接お届けしたいと思いました」

 

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