【前回の記事を読む】「洋服じゃないの。そういう彼が欲しいの」店に訪れた社長令嬢の一言に私は凍りついた

不可解な恋 ~彼氏がお見合いをしました~

「俊雄さんに喜んで欲しくて……十着くらい買って、プレゼントすれば良いかしら? 少ないかしら?」

沸々と怒りが湧いてこようとも、相手はお客様として服を買おうとしている。必死に笑顔を作り、「貴女が良さそうな物を贈ればよろしいのではないでしょうか」と答えた。

「……そうね。そういうものかもしれないわね。では、えっと……男性の服を選ぶのには慣れていないので、こっちからあそこの端まで並んでいる服を一着ずつ下さる? サイズはLサイズだったかしら……? ああ、それから、私一人では服を持ちきれないので、宅急便で送って下さる?」

そう言って、家の住所が書かれたメモを渡される。

「あ、もちろんラッピングをしてリボンをつけて下さいね? 真っ赤な赤のリボンが良いわ」

「かしこまりました」

「支払いは、このカードで」

渡されたのは、話だけは聞いたことがあるブラックカード。明らかにお金持ちという証拠だ。支払いの手続きを終えると、悠希さんはお店を後にした。

「凄い買い方だな。知り合いなの?」

「……ある意味知り合いで、ある意味知らない人です」

「何だそりゃ」

「今日、初めて会ったので……彼氏のお見合い相手なんです」

「はあ!?」

長澤さんが驚き、手に持っていた商品を思わず落としそうになる。

「ちょっと待って。彼氏のお見合い相手ってどういう意味?」

「そのままの意味です。彼氏とお見合いした女性なんです」

「ますます分からん。恋人がいるのにお見合い? 普通はしないだろ」

「……ですよね……でも、社長の娘さんらしくて。彼って押しに弱いので、それで……」

「待て待て。明らかにおかしいだろ。押しが弱くてもおかしいって……!」

自分と同じ感じ方をしてくれて、少し安心した。自分は間違った考えを持っていないのだと。

「それでお見合いの結果はどうなったんだ? ……もしかして、断り切れていないのか?」

「……みたいです」

「絶対にあり得ない! 好きな女がいたら、断るのに躊躇なんてしないだろ」

そうですね、とだけ答えて、悠希さんが買うと言った服を、一枚一枚丁寧に畳んで、大きなプレゼント用の箱に入れて、包装紙で包み、ご希望の赤いリボンを付けてラッピングを終わらせた。

「長澤さん、これ、宅急便で送って欲しいそうです」