お店が開店し、接客をしながら忙しく立ち回っていると、女性に声を掛けられた。彼氏とかへのプレゼントかなと思い向き直ると、そこには長い黒髪の綺麗な女性が微笑んでいた。

「どのような物をお探しですか?」

「そうね、真面目で一途な彼が欲しいの」

「……えっと、そういう男性に似合うような服を、という事でよろしいでしょうか」

「洋服じゃないの。そういう彼が欲しいの。下さる?」

何を言っているのかサッパリ意味が分からなかった。

「私、何か変な事を言っているかしら?」

首を傾げ、不思議そうな顔をする女性。見れば見る程、綺麗な人だ。

「あの……このお店では、ご希望に添えかねますが……」

「あら、貴女さえ『あげる』って言って下されば良いのよ?」

やはり会話が噛み合わない。女性の精神的な面を心配してしまう。

「悠希、先に行ってしまっては、どのお店か分からないじゃないか」

今度は中年の男性が現れた。

――ゆうき?

「あー、君が沢村亜紀さんかね?」

「はい、そうですけど……」

中年の男性が名刺を差し出してきた。そこには……俊雄さんの勤める出版社の名前と、『社長 田中幹夫』と記されていた。

「お父様、今は私がお話をしているのですよ?」

「悠希、こんな事は話では済まないものだ。こうしなければ」

そう言って、分厚い封筒を私に渡そうとする。私は咄嗟に手を引っ込める。

「沢村さん、これは園田俊雄君との手切れ金だ。五百万ある。それで手を打たんかね?」

「手切れ金って……」

「うむ。彼と別れて欲しいんだ。娘の悠希が彼を好きになってね、結婚を前提に付き合いたいと言うので、今日、こうして頭を下げてお願いに来たという訳なんだ」