【前回の記事を読む】「……ねぇ、彼女と関係を持ったの?」その問いに、彼氏は“沈黙”で答えた
不可解な恋 ~彼氏がお見合いをしました~
俊雄さんと悠希さんが、肉体関係になっていた事は本当にショックだった。例え一回でさえも。でも、私も南君と関係をもってしまっている。慰めが欲しいからといって。だから、本来なら強く俊雄さんを責められない。私も同罪なのだから。
私はこれからどうしたら良いんだろう?
悠希さんは本気だ。だけど俊雄さんは強く言えない。やんわり断っていては、彼女に本気の度合いが伝わらないだろう。もう結婚の準備さえ直ぐに出来るという田中社長に弱みを見せたら、そのまま結婚してしまいそうだ。そんな危惧さえあった。
「亜紀~!」
仕事が始まる五分前に、真由が泣きついてきた。理由を訊くと、長澤さんと揉めたと言う。原因は、真由が奥様と離婚して自分と結婚して欲しい、その他の女性も皆切って欲しい、という要求を出したかららしい。
「正幸さんは奥さんの事がそんなに好きなのかなぁ。だって不倫相手も私だけじゃないし……。でもね、セックスレスだって言ってたから、女性としては見ていないと思うんだよね。亜紀はどう思う?」
「うーん、別れたくないって気持ちは尊重してあげたら? 奥様には何らかの魅力があるんだよ。今のままで辛いなら、真由が諦め――」
「それは嫌!」
言い終わる前に、直ぐに真由の言葉が返ってきた。それだけ思い入れが強いのだろうけど、でも、不倫は不倫。遊びだと言われてしまえばそれまでだ。そして、何より、今は私自身の問題で頭がいっぱいで、真由の相談にまで考えが及ばない。
「おーい、お二人さん。もう開店だぞー」
長澤さんに声を掛けられて、私と真由は店頭に急いで行った。
「おはよう、亜紀ちゃん!」
開店早々、南君がお店に現れる。
「あれ? キスマークの所に絆創膏が貼ってある……」
「邪推されても嫌ですから。今日はどのような物をお探しですか?」
「うぅ……。お客としてしか見てくれないの?」
「はい」
「くはー、振られた~! そんなに彼氏が良いの? 彼氏のどの辺が好きなの?」
「それは……」
昨夜の事を思い出して、複雑な気持ちになった。好きという気持ちが無くなった訳じゃないけど、真面目な俊雄さんが、悠希さんの思い通りにコトを進められてしまっていて、本当に結婚という事を視野に入れていないか心配になっているのも事実だ。真面目だからこそ……あり得る。
「おーい、亜紀ちゃん? どうしたの? 暗い顔してるよ? ……もしかして上手くいってないの?」
「そんな事は――」
「嘘だね。亜紀ちゃんの顔に書いてあるよ。彼氏と揉めてるって。例の社長令嬢との事が原因でしょ?」
何でこんなにもお見通し状態になっているんだろう……。
「今は仕事中ですので、プライベートなご質問にはお答えしかねます」
マニュアル通りの返事をした。そうでないと南君のペースになって、また……弱音を吐きたくなるのが怖かった。あんな慰めは、求めちゃいけない、そう強く思って。
「おはようございます」