第一章 青天霹靂 あと377日

二〇一五年

十二月八日(火)

郷里、新潟の金治叔父から見舞いの小包が届いた。

母のすぐ上の兄で、歳が近いことから「ちー兄ちゃん、ちー兄ちゃん」と、未だ甘え親しむ。

笹団子に焼き芋、いろいろと母の好物ばかりがダンボール箱いっぱいに詰め込んであり、母はその宝箱をまさぐり、大きな洋梨をつかみ皮もむかずに噛りついた。

「あー、こんな旨いの初めて食べたよ……ほれ、お前も食 え」

“ル・レクチェ”というその新種の梨は、叔父の娘(つまり私の従姉妹)が嫁いだ果樹園で作られたもので、たしかに絶品の味である。

母は目を張り頬張りながら涙をこぼした。

いつしか窓の外は黄昏れ、母は静かな声で鼻歌をうたっている。

♪夕焼けこやけの 赤とんぼ……

その声が少し震えてにじんだように思えたのは、涙のせいか、それとも失語症の進行か。

薄暗くなった病室の隅で、こんな穏やかな日々がずっと続けば良いのにと、母を見つめつつ胸が締めつけられる痛みを感じていた。

「いつごろ退院できるろっかね……。元気になんねば、元気でさえいれば……」

母は芋を食いながら“グスン”と、また鼻をぬぐった。

[写真1]あー、うんめな