「お前たちは、この武烈天皇が何歳で崩御されたと考えておるのだ」

「は、はい。そのあたり、豊麻呂の話にはありませんでした。が、他の書には十八で崩御されたとか……」

「それがわかっておりながら、この内容が変だとは思わなかったのか?」

「あのぉ、はい……」

気の利いた返事がないことに、不比等は肩が上下するほどのため息をついた。

「いいか。ある口伝では武烈は十八歳で崩御され、そして在位は八年とある。ということは十歳の頃に即位されたことになる。

然るに、この影媛と鮪との騒ぎは太子の時の話とある。ということはだ、この天皇はまだ十(とお)になるかならずの子供の時に、女を取り合い、負けた相手を殺すように命じたというのか?」

文手は額の汗を拭いながら、じっと考え込んだ。

「あのぉ、そ、それは、確かに。し、しかし、絶対にないとは言い切れません、と思いますが……。年若の頃に婚礼をあげた皇族はおります。それに、残忍な気性であったと、語り継がれておりますし。も、もしかしたらぁ、幼き頃から、残虐な行いをしていたのかもしれません。

それに、我らが調べた書の中には、武烈天皇は五十を超える歳まで存命であったと言われるものもございます」

「ふむ……」

不比等は顎髭をなでた。

「まぁ、良い。それは、豊麻呂とやらに聞くとしよう。

さて、では、この先のお前たちの作った物語を読むとしよう」

不比等は嫌味な物言いをした。

 

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