国立公園への挑戦
スポーツカメラマンの仕事は一見華やかで若者の憧れの仕事にも映るが、特にゴルフの取材が多かったボクは試合の練習日、予選本選合わせて週に4日以上重いカメラとレンズを担ぎコースを歩き続け、人混みにまみれる仕事で心も体も擦り切れていた。
それに新聞社の仕事では締め切り時間があり、まだパソコンのない時代で、ホテルのバスルームでフィルムを現像し電送機を電話線に繋いで送るという今では考えらないような作業をしていた。締め切り前の毎日が時間との闘い、異常なプレッシャーとの闘いでもあった。
そんな生活に疲れ果てたあるとき、イエローストーン国立公園へと旅した。
そのとき故郷長島に帰ったようなゆったりした気持ちになった。キラキラと輝く川が流れ、バッファローが草を食み、ゆったりとした時間が流れていた。その動物たちの姿に農業高校で世話していたあの動物たちが蘇ってきた。昔は汚く感じ嫌いだった動物たちが、心の友としての温かい思い出として蘇ってきた。

「こんなアメリカがあったんだ」
それ以来仕事に疲れるといろんな国立公園や野生動物保護区を訪ねるようになった。そして10カ所くらい回ったときに思った。
「全部の国立公園を回って写真を撮ってみよう」
それまでぼんやりと訪れていた国立公園の旅がそのときから自分自身に課したミッション(任務)となった。その頃の国立公園は全部で50カ所ちょっとだったが、クリントン大統領時代に58カ所に増えた(2024年現在63カ所)。
地図の上で旅するのは簡単だが、実際国立公園はアメリカ本土以外に、ハワイやサモア島、ヴァージン諸島などにもある。そしてアラスカには交通機関がなく、水上機で運んでもらいそこでキャンプしなければならないところもあった。
金銭的にも苦しかった。スポーツの取材で稼いだお金はほとんど新しい旅に消えていった。しかし精神的には充実していくのがわかった。そして写真にも変化が出てきた。初めの頃憧れで見ていた有名カメラマンの写真集がそんなに眩しくなくなってきた。
「ボクだったらこう撮る?」と。
