「嬢ちゃんも、相当な物好きだな」
「え?」
「あの子はな、強い子だ。自分が背負わなきゃいけねぇモンを、よく知っている。舞台ってのは、裏方がいないと始まらない。照明がいて、衣装スタッフがいて、大道具がいて、小道具がいて、黒子がいて、それで初めて役者ってのは輝ける。その中には、もちろん脚本家も」
先輩は、僕の書いたシワだらけの原稿を一枚、また一枚とめくり、しっかりと声に出していった。
「役者が舞台に上がってできることなんて、せいぜいキャラクターになりきることくらい。でも、それだけのことで、関わった全員の頑張りを無駄にしちまう……役者ってのは、不安なんだよ。そいつに道を示してやれるのは、ずっと寄り添ってやれるのは、脚本家の書く言葉だけ」
特別な衣装も、ステージ上の大道具も、派手なライトすらない舞台の上で、先輩はただ、僕の書いた原稿を演じていく。
『恥も外聞も名誉も捨て、ただ信じた物を貫く。それが役者だ! それが表現者だ! 力を持たぬからこそ、苦しみ、足掻き、迷う! だががむしゃらに駆け抜けたその先は、澄んだ湖のほとりが待っている!』
「ふぅ……」
すべてのセリフを終えた先輩は、舞台を降りて僕の方へと歩いてくる。
「いえ……あの……」
先輩の顔が見れない。
目をそらしていると、大田さんが僕の肩を叩く。
「坊主、嬢ちゃんがなんでここに連れてきたかわかるか?」
行動はわかる。僕の台本を、僕自身に見せるためだろう。ただ……
「なんで……」
先輩は、無理して気丈に振る舞っていたようで、ふと俯くと、僕の胸に顔をうずめてきた。
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