僕は、僕の中にとぐろを巻いた気持ちをどうにかしたくて、自分のことを責めた。必死になって書いていた自分のことをバカにした。
この前のとは違う自分のことを嘲る邪悪な笑い方をしてみた。でも、心から降ってくる雨は、どうしようもなく芝生に落ちていった。
「少しは楽になった? コウくん」
「先輩……?」
声のする方にゆっくりと振り向くと、缶のコーヒーを二本持った先輩が立っていた。
「放っておいてください……僕は先輩が思ってるような文才はなかったんです」
先輩は何も言わず、僕の隣に座った。
「何もなかったんです! 無駄だったんですよ! 筆を握ったことも……書いたことも……夢を見続けたことも!」
風になびく草の音がする。
「だからもう……放っておいてくださいよ。一人にしてください……僕を……」
「言いたいのって、それだけ?」
立ち上がった先輩は、おもむろに僕の腕を握りしめた。
「ちょっと付き合って」
「劇……場?」
先輩が大田さんに目くばせをすると、そのまま鍵を開けてくれた。
「お疲れさん。隣、いいか?」
大田さんが僕の隣の席に腰掛ける。僕は戸惑いながらも、首を縦に振る。すると、ステージの中央にスポットライトが射す。
『何のために踊るのか。何のためにその手を取るのか。今一度考えてみろ! 己の悲しみ、苦しみ、怒りさえ力となせ!』
先輩の手には、くしゃくしゃになった原稿用紙。それに、裏からでもわかるくらいびっしりと赤いペンで演出のト書きが書かれていた。