【前回の記事を読む】彼氏以外の男性に唇を奪われても私は抵抗しなかった。それは彼氏への不信感が強まっていたからかもしれない
不可解な恋 ~彼氏がお見合いをしました~
「そうだ。今日一日、亜紀ちゃんの彼氏として過ごさせて」
「え? そんなの――」
「亜紀ちゃんの彼氏は亜紀ちゃんを傷付けたんだから、それを癒す役割をさせて欲しい。駄目?」
本当は癒されたい。でもそれは、俊雄さんを裏切る事になる。だから私は首を横に振った。
「彼氏にされた仕打ちを許せるの?」
「それは……」
そう言われると、許す事はできない。私は、俊雄さんに対して、どう対応をしたら良いのか、実際は分からないでいた。距離を置くと彼に伝えたのは、それしか思い浮かばなかったから。それに、今は傍にいたくない。
「今日一日、俺だけを見て、俺を感じて、俺に癒されて」
「南君……気持ちは嬉しいけど、でも――」
「嬉しいなら、決まり! ほら、観覧車ももう地上に着くし、ゴンドラから降りたら俺達恋人ね!」
「ち、ちょっ……! そんな勝手な――」
「はい、着ーいた! 亜紀ちゃん、ほら、行こう!」
手をギュッと握られて、そのまま南君が走り出す。
「はあーい、次は亜紀ちゃんご指名のコースターに乗ろう!」
満面の笑顔が返ってきて、私の胸を熱くさせる。
……一日……くらいなら……。
俊雄さんのお見合いからずっとモヤモヤと過ごしてきたお陰で、すっかり心の底から笑う事まで忘れてしまっていた。南君の笑顔を見ると、こっちまで自然と笑顔になるのだから不思議だ。
「もう、馬鹿なんだから」
「何? 俺の事? はい、亜紀ちゃん馬鹿です~。亜紀ちゃんの事しか考えてないからね!」
「ううん、私が馬鹿だって事。もっと早く素直になっておけば良かったのにって」
「何々? それって俺に心を開いてくれたって事?」
頬をほんのり赤く染めて、南君が嬉しそうに言う。
「ご想像にお任せします」
「あ、ずるいー!」
「ふふ、ほら、もう直ぐ私達の番だよ」
「……うん。亜紀ちゃんは笑ってる方が良い。可愛いよ!」
周囲の目を気にせず、ギュッと抱き締められる。恥ずかしい気持ちと、落ち着く気持ちがぶつかり合い、最終的に落ち着く気持ちが勝って、そっと南君の背中に手を回した。
「うんうん、恋人って感じだよね~! 嬉しいよ!」