次にサブちゃんを預かることになったのは、鉄工所兼金物屋の佐藤だった。佐藤とその妻の恵子には、宏という不良息子がいた。宏はいつも不良仲間を家に呼んでいたので、サブちゃんの存在が邪魔で仕方なく、「浮浪者、浮浪者」と言って罵倒していた。
宏が不良仲間と悪事に手を染め始めたことは、三人の相談役の耳にも届いていた。三人は毎晩のように「時の扉」という行きつけのスナックに集まり、宏を更生させるための策を練っていた。
「佐藤の息子は、どうやら地上げのような真似事をしているらしいな」山本が水割りを口につけた。
「地上げ? 大型スーパーの話は関係があるのか?」市瀬は眉をひそめた。この街には大型スーパー進出の噂がある。何やらきな臭いものを感じた。
「なきにしもあらずだな」鈴木が言った。「隣の商店街のある店では、佐藤の息子の仲間から脅しを受けたらしい。そのうち三郎商店街にも被害が及ぶかもしれんぞ」
「商店街の仲間にも、気をつけるよう言っておかないとな」山本が立ち上がり、たまたま店に来ていた商店街の仲間の席に移った。
「サブちゃん、つまらねえ話で悪いな」市瀬が声をかけると、サブちゃんは穏やかな表情で首を振った。たまには気晴らしをさせようと、市瀬が連れ出したのだ。かといって、サブちゃんは酒を飲むでもなく、カラオケを歌うでもなく、お茶を飲んで静かに話を聞くだけだった。
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