【前回記事を読む】遺品の中から謎の高級時計が…! SNSに写真を載せた翌日、大手時計メーカーの代表が現れて…
三郎商店街のサブちゃん
「先代の社長が言っていました。クオーツユニバースを開発できたのは、親友のカズちゃんの発想力があったからだと。カズちゃんに友情を感じていた先代は、クオーツユニバースのプロトタイプを贈ったと話していました。そのカズちゃんこそ、小島和志さんなのです」
降って湧いたような話に、市瀬はまるで理解が追いつかなかった。
「もしよろしければ、こちらの時計をお譲りいただけないでしょうか。以前より、アメリカのスミソニアン博物館から所在に関する問い合わせがあるほど価値のある時計です。もちろん、タダとは言いません。三億円をお支払いします」
「三億円?」節子の声が裏返った。すると、間髪入れずにあずみが「申し訳ございませんが、このお話は辞退させてください」と、言って頭を下げた。
「ど、どうしてです?」高田が食い下がった。
「父には形見らしい形見がありません。社長様のお話を聞き、この時計には父の青春時代の思い出が詰まっていることがわかりました。家族代々、大切に使わせていただきます。それでいいわよね、母さん?」
あずみがきっぱりと言うと、節子も「そうね」と笑った。ふたりの話を聞いた織部は、もの言いたげな高田を制して「わかりました」と、声を張った。
「ご主人がお亡くなりになったばかりなのに、こちらの都合ばかり話してしまい、申し訳ございません。腕時計のことは潔く諦めます」
「社長!」急に高田が立ち上がったが、織部は微動だにしない。
「ただ、もしかしたらこちらのお宅には、クオーツユニバースに関する資料が眠っているかもしれません。見つかった際は、ご連絡いただけないでしょうか」