「この紙にクオーツって書いてありますな」急に声を出したのはサブちゃんだった。サブちゃんの手には、日に焼けて変色している紙があった。

「それ、どこにあったの?」あずみが聞くと、サブちゃんは「処分しようと思った古雑誌に挟まっていました」と、あっけらかんとした口調で答えた。

「拝見してもよろしいですか」織部が立ち上がり、サブちゃんから紙を受け取ると目を見開いた。

「間違いありません。初代クオーツユニバースの設計図です。これがあれば、プロトタイプのレプリカを製作できる」織部は声を弾ませた。

「そんなに大切なものなのね。せっかくお越しいただいたので、よろしければそちらはお持ち帰りください」節子がそう言うと、織部は「感謝します」と言って節子に握手を求めた。

「こちらの設計図ですが、十億円でお譲りいただいてもよろしいでしょうか」織部が言った。

「設計図だけでそんなに価値があるの?」あずみが素っ頓狂な声を上げる。「はい、それほどの価値があります。いかがでしょう?」織部の言葉に、節子は「そんなにいただくのは悪いようね。でも、わかりました。ご提示の額で結構です」と、返事をした。

市瀬はただなりゆきを眺めているだけだったが、節子から「なんだかサブちゃんが福を運んできたようね」と微笑みを投げかけられ、「まったくとんでもないことになりましたな」と、曖昧に答えた。