前書き

この原稿を書き始めた今日は、2024年7月14日。フランス革命記念日、パリ祭の日。テレビではオリンピックの聖火がパリに着き、市内を回り始めたと伝えている。凱旋門、サクレクール寺院、エッフェル塔等、懐かしいパリの風景が映しだされている。

毎年7月14日になると青春の最後、28歳から30歳直前までの約2年間を過ごしたフランスでの日々を思い出す。今年は特にオリンピック開催でパリの情報が目に付き懐かしさが増している。

2024年の3月末で45年のサラリーマン生活を終えた。時間に余裕ができたためか、今までの人生を振り返り、いろいろと思い出すことが多くなった。3人の娘たちも結婚して皆家を出た。孫も3人となった。

今の幸せな生活を考えると、私は幸運な人生を送ってきたと心から思う。私の人生で最も輝く思い出は、40年前に過ごしたフランスでの2年間だ。

パリオリンピックを前に、フランス時代の古い日記を手元に取り出して読みなおしてみた。

製菓製パンの技術習得のための研修に悪戦苦闘する一方で、休みになればいろんな場所に出かけていく。時に九死に一生を得るような事故に遭遇することもあったが、日本人としてはまだ少なかったフランスのパティシエ技術資格「CAP」を取ったりと、仕事もプライベートも充実した忙しい日々を送っていた。

紙が黄色く変色した古い日記を読むと、私を実の息子のように大切にしてくれたマシュレイ夫妻との生活が目に浮かぶ。この経験が今の自分の生活の拠り所になっている。

こういった想いから、サラリーマン生活の引退、パリオリンピック開催を機会にフランスで体験したことを改めて書いてみようと思い立ち、この原稿を書き始めた。今ではフランスに関する紀行文や体験記は多数出版されている。

それでも、私のような経験をされた方は少ないと思う。1980年代の日本には携帯電話もインターネットもなかった。高度経済成長の名残があり、今より活気のある時代だった。

古い話ではあるが、この拙文を読んでフランスのファンが増えてくれたらうれしい。また、若い間に外国生活を経験すると、日本のことを改めて考える良いきっかけになる。ますます多くの日本人が海外生活を経験し、日本のことをより深く考えるようになってほしい。