冬場は一面雪に覆われ稼ぎにならない。峯司は思い切って内地の工事現場の出稼ぎにほかの部落の人と一緒に行ってみることにした。ハルも近くにあるホタテの加工場に朝早くからアルバイトに出てみた。二人とも一日でも早く借金を返し、少しでも耕作面積を増やして後を引き継ぐ子どもたちに残してやりたかった。
清治夫婦に子ができた。それを機に野菜の出荷は清治夫婦に譲ったが、近所に道の駅ができ、野菜や手芸品の売り上げも馬鹿にならない。特にハルの作る軍手の指人形や絣で作った荒巻鮭の飾り物、かわいい雛人形などは、観光バスが停まるたびに注目を集め、人気でよく売れた。
ハルはついつい根をつめて手芸に精を出し、どれだけ疲れていても針と糸を持つと元気が出てしまう。だから夜遅くまで作り続けてしまった。北国の農家は夫婦が力を合わせて作業をしないと成立しない。
トラクターを何台も用意して、お天道様と競争で仕事を進めている。だから農家のお嫁さんは車の運転から機械の取り扱いまで、男性並みに理解してこなさないと務まらない。まさに夫婦二人三脚。子育ては保育所にお願いするが、送り迎えもじいちゃん、ばあちゃんの仕事になる。
今度はハル夫婦が孫を育てる番になった。
男の子一人と、女の子二人、三人いる孫がかわいくてならない。「めんこいんだあ」がハルの口癖。そのくせ、しつけは結構厳しい。何度注意しても言いつけを守れないときは、痛いげんこつや、この手が悪いと思いっきりつねる。しょっちゅう叱っていた。
「ばあちゃんはふだん優しいんだけど……怒ると、痛い」
孫たちは口をそろえる。手が早いのだ。でもやっぱり孫には甘い。孫の帰りに合わせて、お饅頭やらトウモロコシなど、お腹を満たせるものをいつでもこしらえて待っている。ばあちゃんのぬいぐるみは孫にも人気。クマやキリンが得意で孫たちはでき上がるのを待っている。
大人になっても孫たちはばあちゃん子で、恋人ができると母親より先にハルに紹介した。公認のばあちゃん子なのだ。ハルは子にも孫にも過分な期待を寄せないようにしている。元気なら良い。生きているだけで丸もうけと思うのだ。いまの社会は複雑だから、簡単に挫折してしまう。本人だけが悪いわけではない。家族は寄り添うしかない。