そう言いながら、エレベーターに乗り込む。理子が4階のボタンを押した時、後ろから違う階のボタンを押されなかっただけでまさかという思いがよぎったが、そういう直感はだいたい当たる。

理子が自室の前まで来ると、秋斗はすぐ隣のドアに向かって鍵を差し込んだ。

「え、ウソ……あの、本当に……?」

「知らない人の家の鍵持ってるわけないだろ」

「それは、そうなんだけど……」

「おやすみ」

「おやすみ、なさい……?」

秋斗はすんなり部屋に戻ってしまい、理子だけがその場に残される。

(なんでこれまで気づかなかったの……?!)

あまりに衝撃的すぎて、しばらく動けないでいた。

朝、会社へ向かう道中、赤信号の間にくるみは理子からのLINEに返信していた。

『隣の部屋に同期が住んでたなんて、ここに住み始めてもう2年くらい経つけど全然気づかなかったんだよね……知り合いと家が近いって、本当に気まずい』

それまでほとんど存在を認識していなかった相手だったらしいが、それでも会社の、しかも同期が壁一枚隔てた向こうにいると思ったら気も抜けないだろう。

『気まずいね……。今まですれ違ったりしなかったの?』

『うん。どんな人が隣に住んでるかも知らなかったよ』

(そんな漫画みたいなこともあるんだなぁ……)

返信を打ち終えた頃、ちょうど千春からもLINEが飛んできた。

『おはよう。来月からまた忙しくなりそうだから、しばらく様子見に行けないかも。お母さんにもそう言ったから、何か言われたらごめんね』