ネイビーは、双子のさらに奥に座る、若い男女と話をしている。ときどき早い時間に顔を出す、近所のご夫婦だ。
「マスター、この町で幼児の英語教室、どこか評判いいところを聞きませんか?」
「英語なぁ。英才教育も大変だね……日本語の勉強は大丈夫なの?」
「日本語? ……絵本の読み聞かせは、ときどきやっていますけど」
夫婦は顔を見合わせる。日本人が、日本語の学習塾に行くかな。
「英語なぁ……おーい、ジョージ。お前さんは、ナニ語で育ったの?」
「えっ、ボクですか?」
「あちらのかた、この前、外国のひとと上手な英語で話していましたよね」
夫婦がジョージに、軽く会釈する。
「ボク、香港出身なんです。向こうでインターナショナル・スクールに入って、そこは広東語と英語が公用語でした。それと、お母さんが日本人なので日本語が少しできて、10歳の時にこっちへ来てからは、やっぱりインターで英語と日本語で……うーん、ボクはナニ語で育ったの? わからない!」
「うらやましいな」
「グローバルで活躍するの、困らないですね」
「ぜんぜん、困っています。自分がナニ語で考えているのか、わからなくなる時があるんです。アイデンティティというか、ボクには根っこがないみたいで、とても寂しく思うことがあります。特に大変なのは、どの言語のボキャブラリーも偏っているんです。広東語は子どもがしゃべる感覚、日本語は高校の宿題を発表しているみたいな感じ……」
「ジョージの日本語は、流暢だと思うよ」
ネイビーはいつも、彼の語りを楽しんでいた。
「質ではなくて量でしょう? 母がおしゃべりだから、ボクもたくさん話します」