【前回記事を読む】経営は、スキルではない。あらゆる学びによって磨かれていくものは、結局、人間ひとりひとりの芯にある、感性や想いなのだ
第二章 すぐそばにある、知の分断
YOさんとKeiさんは、今夜もモニター画面を肴に、それぞれの瓶ビールを飲んでいる。アメリカで、また無差別の銃乱射事件があったらしい。
「あのひとたちは、ずっと内戦をやってるんじゃないかな」
「南北戦争が終わらないんだ」
「10代の頃は、あこがれの国だった」
「電動歯ブラシの生活とかな」
「……そこなの?」
画面が変わり、メジャーリーグのダイジェストを伝えはじめた。
「ホームランの打球を、すぐに黄色や緑のマーカーみたいなラインでトレースするだろ。あの技術って、弾道ミサイルの追尾システムらしいぜ」
「軍事技術なのか」
カウンターの右隅には、相変わらずのクマくん。ひとつ空けて、L字の角からジョージ、若手のシュウトくん。その先に座る双子の兄弟と、しだいに会話が交ざっていく。
「お掃除ロボットも、もとは地雷の除去装置でしょ」
「ネットも軍事技術からです」
「ティッシュや缶詰も、軍需から民需への転用だったかな」
「デュアルユースっていうらしい」
「戦争とセットじゃないと、平和は生まれないのかなぁ……」
今夜のおつまみ三品は、小さな冷奴にギバサをのせたもの、ゴーヤの種付き輪切り揚げと、青トマトのピクルス。都会の四季は、酒の肴からはじまる。