母系制と父系制、母系制から父系制への転換、これらのことは、人類史を明らかにするための、重要なキーワードである。
母系制とは、典型的には、族祖母を中心に、母系を辿る血縁関係によってまとまる母系氏族を構成要素として、他の母系氏族への妻問い婚や、他の母系氏族からの婿取り婚による族外婚姻制度をもつ部族社会の体制であり、父系制とは、逆に、族祖父を中心に、父系を辿る血縁関係によってまとまる父系氏族を構成要素とし、典型的には、嫁取り婚による族外婚姻制をもつ部族社会の体制である。
男が妻の属する母系氏族に通い、産まれた子供は妻の氏族に属した、母系制社会、かたや、妻が夫の属する父系氏族に娶られ、産まれた子供は夫の属する氏族に属した、父系制社会。
人類の族制史においては、大まかには、旧制度である母系制が先にあり、ここから時代の降下とともに、新制度である父系制への転換がなされたと考えられている。
母系制時代には母族によって育まれていた子は、父系制時代になるや、父族のもとに入った母独りの手に委ねられる運命となった。このような、子の養育環境の劣悪化が、母系制から父系制への転換という時代変遷に分かちがたく結びついている。
その母系制から父系制への転換の歴史、人類史のこの一大変容史は、戦争という、極めて非人間的でありながら、勝れて人間的なる事件が、わが世界史に立ち現れてくる歴史と、軌を一にしているのである。しかし、これはまた、後に論じることとして、シャカムニの教えに戻ろう。