だいたい、駅員もいないローカル駅から一時間に三本しか便のないバス(昼間になると一時間に一便もない!)に乗り継いで、しかも、バス停から一キロも歩かなきゃいけない場所に合宿寮があるってどういうことなの? まるっきり隔離施設じゃない。

家を出てから寮に着くまでの過程も合宿の一部なのです、とか言いたいのだろうか。うちの学校は、むだに伝統があるぶん、そういう古くさい教育方針を美徳みたいに守り続けているところがあるんだよね……。

目の前に伸びる道にはだれの姿もない。当然だ。わざわざ指示された便よりも一本あとの電車を利用したのだから。

おかげで、電車から乗りついだバスも、ほかの生徒たちが乗った便より一便遅いバス。先生の指示に逆らうなんて夢にも思ったことのない良い子たちは、もうとっくに寮に到着してくつろいでいるころだろう。

振り返ると、夏草の海から湧き出るようにして、むくむくと盛りあがっている肉厚の雲。まるで、行く手に立ちはだかる真っ白な巨人だ。入道雲って言葉を思いついた人は、天才なんじゃないかと思う。

メガネをはずし、額に浮かんだ汗の粒を手の甲でぬぐう。そのまま手のひらを額にかざして、空を見あげた。

 

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