【前回の記事を読む】昔の女性は重労働の家事のほとんどを負わされ、それが"普通"だった。早く起き、火をおこし、ご飯の準備、水汲みから洗濯をし…
半年が経つ
マムシの小太刀を、マムシ以外の若い貴公子が持つ事、身分が違う故、仕方がない事だが、種材にとっては面白くない事態であった。
このむしゃくしゃした気分を、警護所に設えてある弓庭(ゆば)で晴らしていたので、矢の行方は、何時もの彼のモノとは、異なっていた。
その様な〝的〟から飛び出した、矢が、傍を通りかかっていた忠賢を襲った。
然し、忠賢は、平然と借りていた小太刀で、その矢を〝切り裂き〟難を得る事は無かった。そして言い放った。
「如何した! 種材。危ないではないか?」
種材は、立場上、年下の若君に、伺候して許しを得るしかなかったが、思わず心の声を発してしまった。
「申し訳ございませぬ。しかし、流石でございます。忠賢様」
これは一種の挑発であった。が、彼は、その様には受け止めなかった。
「左様か? どれ貸して見せよ」
と言うと、種材の弓を取り上げ、彼の後ろに番(つが)えてある矢を吟味もせず〝行き成り〟取って、的を射て見せた。その矢は、見事の芯を射ていた。
一瞬の静寂の後、警護所に集う、地侍や、郎党、舎人共は〝やんや〟の喝采を!
この若い貴公子、自身達の上司であり、大宰府権帥の嫡子に送った。
それをして種材を益々滅入らせたが、彼の後を追い、物陰からこの様を隠れて見ていた百足は、熱いモノが、込み上げていた。
東シナ海に面した玄海の浜は、未だ穏やかであった。