第一章 出会い――ひまわり坂でキミと
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ときおり、生ぬるい風がゆらゆらと吹きつける。
クリップでルーズにまとめたハーフアップの髪が、そのたびにふわりと広がる。
踏むごとに白い土ぼこりが舞いあがる道の両脇には、青々とした草が腰の高さくらいまで伸びている。ざわざわと音を鳴らしながら気だるげにひるがえる葉裏(はうら)が、そのたびに波の泡みたいな光を空に散らす。
波の泡――不意にそんなことを思ったのは、たぶん、この風のなかに、ほんの少し潮のにおいを感じとったせいだ。ああ、そうか……この風は、きっと海からやってくるんだ。残念なことに、ここから海は見えないけれど。
海なんて、どこまで行ったってありはしないのだ――そう言えば、ちょうど今読んでいる小説のなかに、そんな言葉があったっけ。
ちらりと見た腕時計の針は、九時十分前をさしている。あたしの感覚で言えば、まだ朝だ。それなのに、陽射しの厳しさはすでに容赦(ようしゃ)を知らない。半袖の制服からむきだしになった腕に、まるで産毛(うぶげ)を焦がすみたいにちりちりと照りつける。
ふう、と息をついて立ちどまると、とたんに全身から汗がにじみだしてくる。荷物でパンパンになったリュックは、濡れた背中にぺっとり張りついていた。
もっと念入りに日焼けどめクリームを塗っておけばよかったな。かと言って、今さらここでリュックをおろし、日焼けどめを取りだすのもめんどいし……。
目の前には、黒々としたあたしの影が焼け焦げのあとみたいに張りつけられている。
くるぶしがじんじんと熱い。ローファーじゃなく、最初からスニーカーできたのは大正解。そこだけは自分をほめてあげたいと思う。