【前回記事を読む】越大王オホトには八人の妃がいて、しかもどの妃も自身の子供を王族・社会の一員として育てている
二、 謁見、手白香姫舞う
「あの烽火は、越のシリまで届くんですよ。毎年のことですが、大陸からご先祖様が此処に住み着き、コメを作り育ててきた我々越人エビスの生業です。一年の始まりは、この野焼きから。おろそかにできないのです。そういえば大和の国は大陸の『呉』がご先祖様と聞いていますが」
いつの間にか傍らに勾大兄王子が、誇らしげに金村に笑う。
一陣の風が川上から、山々から、吹き降りてきた。枯草を焼き尽くす炎と煙が風に乗り筋を描いていく。川の流れと共に、下へ下へと海まで辿り着きそうであった。
徐々に熱風が、南風が強まってきたと感じ始めたとき、
ゴオオオおお、、、
獣が吠えているような風の音が東の山々から聞こえてきた。
「竜神様が鳴き始めたぞォ」
「鳴いた鳴いた、鳴いたぁ」下々にいた群衆が奇声を上げ、煙や炎に巻き込まれないよう山々へと続く小路を駆け上がっていった。
燃え盛る両岸の中、眼下の川を宮女の遺体を乗せた三艘の船がゆらゆらと流れていく。
「越の国では火葬するのですね」
「王族以外はね、王太后、祖母は豊原に」勾大兄王子が答えた。
暫くすると、王族や重臣たち長たちが、山の方へと歩き出した。
「川下の湊には戻れないので、暫くは此処春の宮にて、花の宴が。数日お過ごしください。どうぞ、こちらへ」
前方を手白香姫が大王オホトと、手を繋いでいるではないか。金村は、この順調すぎる状況に戸惑いながら、王子たちの後を付いていくしかなかった。
北東の山々に囲まれ、梅や桃の木々を縫うように石段を登っていくと春の宮についた。
南風がそよそよ吹き、花々の香りでむせ返るようである。
広間に入り、中央正面には大王オホト、両脇には王妃稚子と倭妃が居並ぶ。