「皆の者、ご苦労であった。毎年この春一番の風を待ちわびていた王太后が、年明け早々に崩御された。今年の春祭りも見せたかった。まずは、王太后に感謝の意を」

大王が酒の入った玉杯を捧げ持ち、自分の足元に左から右へとこぼす。

「天と大地の神様に。ここまで導いてくれたご先祖様に」

続いて「大王様に」と皆が唱和する。

――越の酒、芳醇な美味さだ。ぐううっと沁み渡っていくではないか――

舞楽が流れる中、白地に紅梅が舞い散る衣装をまとった女性が花籠を持って中央に出てきた。くるりくるり、と片手を挙げ花籠を真横に差し伸ばしながら、お膳に座していたひとりひとりに、梅や桃の花を一枝ずつ渡していく。

「目子妃様からです」と、最後に大王オホトのもとへ、恭しく捧げ持つ。

勾大兄・檜隈二人の王子の母親目子妃は、尾張から親の反対を押し切って越大王に嫁いだ情の貴女であった。手白香姫と気が合いそうで、隣に座っていた。

「そうよ、目子の花籠の舞は素晴らしいぞ」

皆が、やんややんやと囃し立てるが、

「もう私には舞えません」とやんわり断る目子妃。

「私、手白香が大和の舞を披露させて頂いてもよろしいでしょうか」

と、隣に座していた手白香姫、決意した様で立ち上がり大王に直訴する。

「よかろう」大王はじめ越の者にとっては興味津々である。

「剣舞を舞わせて頂きます」

「どなたか剣をお貸し頂けますでしょうか」

――男ならともかく女が剣舞をするとは――

武将らしき体格の勝った男が、

「私のでよかったらどうぞ」と、黒光りした剣を差し出してきた。

「武人が持つ剣なので、女人のあなたにはご無理かと思われますが」と、一言。笑い声が起こった。

羽衣を脱ぎ、長い髪を束ね、中央に進んできた手白香姫。剣を両手で捧げ持ち、まず大王への敬意を示した。

弟武烈王と剣武も習得されていたのか、過酷な大和王族の生き様を剣舞で見せた手白香姫、ぴたっと最後を決め、顔を伏せた。

おおおおうっ、驚きと賞賛の声が飛び交う。